2015年7月26日日曜日

ソーシャルスタートアップならではのピッチの型は存在するのか?


ソーシャルスタートアップアクセラレータープログラム
”SUSANOO(スサノヲ)”第5期を終え、これまで83組の
プレシード期(初期仮説検証期)を支えてきました。

デモデイ開催に向けて、SUSANOOでは毎週のブートキャンプを中心に、
参加14チームが夜な夜なピッチトレーニングを繰り返しました。
そこで、今回は参加各チームのピッチを磨く過程で見えてきた
ソーシャルスタートアップならではの『効果的なピッチの型』
についてまとめてみます。

今後ソーシャルスタートアップとしてチャレンジする人が、
プレゼンテーションを構成していく上で悩むことがあれば、
参考にして頂ければと思います。


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本題に入る前に、まずは幾つか前提を整理したいと思います。
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■ソーシャルスタートアップの定義とピッチの目的
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SUSANOOプロジェクトでは、ソーシャルスタートアップの定義を
『高速仮説検証によりイノベーションを生み出し、
人々の生活と世の中を変える取り組みや組織。
特に「市場の失敗」分野に果敢に取り組む人々』 としています。

そんなソーシャルスタートアップのピッチは
「聞き手を味方として巻き込むこと」が最大の目的となります。
そこで、重要になるのは各団体の

①課題解決に向けた情熱、VISIONに共感できるか?
②サービスや製品のキレが伝わるか?
③社会を巻込む戦略を面白がってもらえるか?
④創業チームへの信頼を獲得できるか? の4点です。

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■ソーシャルスタートアップによるピッチの難点
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当初は、ビジネス領域のスタートアップのプレゼンテーションの型を踏襲していました。
しかし、ソーシャルスタートアップが、その型を用いて事業を語ると、
なぜか、次第につまらない内容になっていったのです。

原因として考えられることの1つは、
ソーシャルスタートアップが取組む課題そのものの新しさです。

というのも、そもそも大多数が課題の存在にすら気づいていない領域に挑戦するのが、
ソーシャルスタートアップの存在意義でもあるのですが、
故に、彼らが取り組む課題自体が伝わりづらく、
結果として、ソリューションや事業そのものの存在意義が理解されにくい
といったことが、しばしば起こるのです。

とはいえ、逆に「想い」だけを伝えようとし過ぎると、
今度はあまりにも抽象的なものが出来上がってしまい、
サービスや製品、戦略のどこが新しいのか?が伝わらないし、

「結局何がしたいんだっけ?」

という悲しいリアクションが生まれる事になります。笑

これまで2期のアクセラレータープログラム運営を通じて、
様々なチームが上記のような壁にぶつかっており、
私達も、何か新しい型を見出そうと試行錯誤してきました。


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その結果、現状たどり着いた
ソーシャルスタートアップならではのピッチの型が以下になります。
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■ポイント① 
『ソーシャルスタートアップのピッチは時系列で語ると良い』
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結論から先に述べると、ソーシャルスタートアップの場合、
聞き手から「課題の存在」と「ソリューションのキレ」を
短時間で伝え、かつ「想いへの共感」をしてもらうには

 過去 ▶ 現在 ▶ 未来

という時系列に沿ったシンプルな構成が有効なのではないか?
という仮説に至っています。その構成要素を分解すると以下のようになります。

<過去>
 ①原体験
   =創業者がその課題の存在に気づくきっかけとなる個人的経験。
 ②紆余曲折
   =原体験を起点に、自らの思考に大きな影響を与えた経験。
 ③その結果獲得した独自の視点
   =その結果獲得した、事業のコアとなる独自の世界観(あるいは事業アイデア)
 ④課題の定義
   =本来あるべき理想の状態と現状のギャップを示す。
 ⑤社会性の提示
   =この課題は聞き手を含む、社会全体にとってどんな問題なのか?
 ⑥プロトタイピングの経験
   =これまで試してきた製品やサービスのプロトタイプと失敗の数々について
 ⑦その結果、見えてきた革新的なソリューションの仮説
   =その結果、現在見出しつつある革新的なソリューションの仮説。

<現在>
 ⑧提供しているサービスや製品のプロトタイプの価値
 ⑨顧客(課題当事者)の声

<未来>
 ⑩事業が秘めている社会的インパクトの可能性
 ⑪実現のための戦略の仮説
 ⑫協働提案

という構成です。

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■ポイント② 『起業家自身の物語を語る』
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ソーシャルスタートアップ起業家の多くは、
ごく個人的な経験から社会課題に出逢います。
その後、その課題解決への想いとソリューションのアイデアを
様々な経験を通じて『体験的に』見出していると考えています。

言い換えれば、ほとんどの場合
上記の①~③に当たる部分に、現在見出しつつある
革新的な課題の捉え方やソリューションの源泉があるのです。

しかし、厄介なのは、この①~③が本人にとってはあまりに当たり前すぎること。

それ故、大抵の場合、この最も重要な個人的経験をまるっと語らないまま、
表面的な社会課題の内容や現状説明で終わらせてしまいます。
結果として、聞き手には中途半端なモノにしか映らないのです。

そこで、過去の原体験から現在の事業に至るまでの
個人的な経験(ストーリー)を語ることを型とすることに思い至りました。


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上記のポイントを踏まえるメリットは以下の2点です。
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■メリット① 『想いへの共感』を得やすい。
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SUSANOOで応援しているソーシャルスタートアップ起業家の皆さんのVISIONは、
大抵の場合、常識のアンチテーゼとも言えるエキサイティングな提案です。

ぱっと見は、過激だったり、突拍子もないように見える
彼らのビジョンはこれまでの価値観や常識をものさしにしては、
なかなか理解ができません。

「マネタイズどうすんの?」とか

「それは法令にひっかかるよ?」とか

そういう常識が邪魔して、スっと頭と心に入ってこないのです。

ですが、上述したように、その起業家本人の原体験から、どういう紆余曲折があって、
いまの考え方に行き着いたのか?をストーリーとして聞くと、
何故そのような考えに至ったのか?が明確に理解できるようになります。

結果、この事業に起業家が注ぐ想いにも、共感し易くなると考えています。

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■メリット② 『既存のソリューション』との差がわかりやすい。
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自分自身もしくは身近な人が「課題の当事者」になった
原体験を有するソーシャルスタートアップ起業家は
同時に『既存のソリューション』を利用した経験を持っています。

そして、多くの場合彼らの新しい事業アイデアは
『既存のソリューション』を利用するなかで、
その決定的な問題点に気付くことから生まれるのです。


そこで、②紆余曲折から、⑤その結果、見えてきた革新的なソリューションの仮説
までを続けてストーリーとして語るなかで、『既存のソリューション』の
問題点は何なのか?が明確になります。

ちなみに、シード期のソーシャルスタートアップが、価値仮説も煮詰まっていない中で、
「自社のソリューション」を「既存のソリューション」と
単純に比較すると、サービスや製品内容が固まっていない分、
ただ中途半端なもの、つまらない物を作っているように見えてしまいます。

ですので、『既存のソリューション』ではこれが足りない、という点を
自らの経験を通じて語ることで、共感を呼び起こしつつ、説明します。

その上で、似ているけれども、中身は全く違うものとして、
自社のプロトタイプについて説明する。

この方法により、聞き手としても
その事業の「何が面白みなのか?」をより理解しやすくなります。


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一方で、上記を踏まえて留意すべき点が2つあります。
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■留意点① 『顧客の声を示す』
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上記の個人的な経験を元に構成することで、
「事業にかける想い」「課題の存在」「ソリューションのキレ」
への共感と理解は得易くなると考えています。

その上で、ビジネス領域のスタートアップと同じく
「このサービスは誰にどんな価値を提供するものなのか?」
を端的に説明することは、もちろん必要です。

但し、その際留意して欲しいのが
⑦顧客の声を客観的な事実として示す、ということ。

というのも
ここまでの話が、個人的経験を元に主観のみで構成されているので、
それが単なる思い込みではないことを示す必要があるのです。

注意していただきたいのは、この部分、ただ単にマクロデータを引っ張ってきて
潜在市場の大きさを示すということでは足りないということ。

「本当にそんな困り事を持っている人が他にもいるの?」

ということが、聞き手が抱いている疑問なので、
課題当事者が何に困っているのか?を具体的に示す事例を示すことが先。
その上で、マクロなデータで補完する。

それにより、事業が生み出す社会的意義と
インパクトについての説得力が増すと思います。

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■留意点② 『余白を提示する』
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ソーシャルスタートアップが取り組む「市場の失敗」領域は
行政・大企業・NPO・メディアなど異なるセクターが連携することで、
初めて大きなインパクトが生み出せるという難しさを抱えています。

そして、先述した通り、ソーシャルスタートアップ起業家の
ピッチ目的は「聞き手を味方として巻き込むこと」になります。

ここまで過去と現在について語ることで、
聞き手に「事業の意義」と「想い」に共感してもらい
「一緒になにかやりたい!」と思ってもらえたとします。

そこで、最後に重要になるのが⑩の協働提案の際の、
聞き手が関わる「余白」の提示です。

この「余白」部分がなく、仮に自社だけで遂行できそうな
完璧な事業戦略を披露されたら、聞き手は次のアクションとして
「頑張ってね!」と声をかけることしか出来なくなってしまいます。

それでは、ピッチをする意味がないですよね。

ですので、例えば
「この部分を補完してくれるパートナーを探しています。」とか
「戦略自体をもっと練っていきたいので、一緒に考えませんか?」といった
余白があることで初めて、聞き手を一方向の支援者としてではなく
一緒に動く仲間として巻き込むことが可能になるのです。
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以上が、個人的に現在見出しつつある
ソーシャルスタートアップとしてのピッチの型となります。


もちろん、まだまだ進化の余地は多分にあると思いますので、
引き続き、SUSANOOプロジェクトを通じて、磨いて参ります。
応援よろしくお願いします。


★★SUSANOO第三期採択メンバー募集中(9月15日正午締切)★★
http://www.susanoo.etic.or.jp/

2015年7月20日月曜日

⑧ ソーシャルスタートアップにとってのゴールは何に定めるか?

社会的なインパクトの最大化を目指す
ソーシャルスタートアップにとってのゴールとは何に定めるか?については

まだはっきりとした定義があるわけではありません。

が、これまでSUSANOOを通じて、
いろんなタイプのソーシャルスタートアップに触れるなかで、
ゴールの仮説として個人的に抱いているものが1つあります。

それは、
「課題当事者の17%にソリューションが届く状態を達成すること」

イノベーター理論で言われる
2.5%のイノベーター獲得フェ-ズの後、
13.5%のアーリーアダプターの開拓を経て、
キャズムを超えた普及・一般化の流れを築くこと。

ここが、ソーシャルスタートアップのゴールとして
仮置きすると、良いのではないかと想いました。

理由1
ソーシャルスタートアップが
対象とする課題当事者を定義し、全体数(市場規模)を設定することで、
投資家や寄付者とコミュニケーションがしやすい。

理由2
インパクトそのものに焦点を当てる目標設定により、
複数の資金調達方法や、拡大・一般化に向けた戦略が検討しうる点。

 これについて説明を加えますと、
 インパクト最大化を目的とするソーシャルスタートアップが、
 「課題当事者の17%にソリューションが届く状態を達成すること」を
 目指す場合、取りうる戦略パターンは大きく5つあると考えています。

 ①単純に、自社サービスとしての拡大(IPOを目指すこともこの中に含まれる。)
 ②大企業への事業売却
 ③行政連携による制度化★
 ④競合他社の育成★
 ⑤事業化せずに、運動として展開★
 
 お気付きの通り、特に③~⑤が、
 ソーシャルスタートアップだからこそ、取りうる戦略です。

このように、ソーシャルスタートアップらしい戦略オプションを保ちつつ、
かつ、ビジネスセクターによっても関心を持ちやすい目標設定をすることで、
リソース共有を促進することが出来るのではないかと考えています。

以上